令和2年(2020年10月)問1<囲繞地と袋地>
Aが購入した甲土地が他の土地に囲まれて公道に通じない土地であった場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
- 甲土地が共有物の分割によって公道に通じない土地となっていた場合には、Aは公道に至るために他の分割者の所有地を、償金を支払うことなく通行することができる。
- Aは公道に至るため甲土地を囲んでいる土地を通行する権利を有するところ、Aが自動車を所有していても、自動車による通行権が認められることはない。
- Aが、甲土地を囲んでいる土地の一部である乙土地を公道に出るための通路にする目的で賃借した後、甲土地をBに売却した場合には、乙土地の賃借権は甲土地の所有権に従たるものとして甲土地の所有権とともにBに移転する。
- Cが甲土地を囲む土地の所有権を時効により取得した場合には、AはCが時効取得した土地を公道に至るために通行することができなくなる。
解答
①の解説:正しい
【問題文①】
甲土地が共有物の分割によって公道に通じない土地となっていた場合には、Aは公道に至るために他の分割者の所有地を、償金を支払うことなく通行することができる。
【甲土地が共有物の分割によって公道に通じない土地】とは?
例えば、元々共有物だった一つの土地を甲土地と乙土地と分割することにより、左記の図の形になった。
それにより、甲土地は、公道に通じない土地になってしまっています。この状態を文章からまず読み取りましょう。
【他の分割者の所有地】とは?
これは、この図でいう乙土地のこと。
元々共有物だった土地を分割したのは甲土地と乙土地です。
丙土地は、関係ありませんね。
では、この乙土地を【償金を支払うことなく通行することができる。】のか?
というのが問題の論点です。
下記が民法の条文です。

【民法第213条】
①分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
②前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。
民法の条文の通り、他の分割者の所有地のみを通行することは出来るとなり、この問いは正解となりますが、一方で、丙の土地は、他の分割者の所有地ではないため、通行できないということです。
袋地の場合、原則「通行地の損害として償金を払う必要がある」というのが基礎知識になりますが。そこから、もう一歩踏み込んだ知識が求められています。
難度としては、高くありませんが。合格の分かれ目になる問題です。
②の解説:誤り
【問題文②】
Aは公道に至るため甲土地を囲んでいる土地を通行する権利を有するところ、Aが自動車を所有していても、自動車による通行権が認められることはない。
【甲土地を囲んでいる土地】に対して【通行する権利を有する】
とあるので、公道に出ることが出来るわけですが。
それは、【自動車による通行】も認められるかどうか?
ということが論点です。
ここは、判例に基づくものなので、ほとんどの人が知らない問題だと思います。
判例によると
・公道に至るため他の土地について自動車による通行を認める必要性
・周辺の土地の状況,上記通行権が認められることにより他の土地の所有者が
被る不利益等
これらの諸事情を総合考慮して判断すべきである。
となり、【自動車による通行権が認められることはない。】という論点でいうと、総合的に判断すべきなので、認められることもあることも考えられるため【誤り】となります。
とくに判例を覚える必要はありませんが。この判例を知らなかったとしても「通行する権利を有する」とあるので、もしかしたら自動車も通行できることもありえるかもしれないなと推測できるといいですね。
③の解説:誤り
【問題文③】
Aが、甲土地を囲んでいる土地の一部である乙土地を公道に出るための通路にする目的で賃借した後、甲土地をBに売却した場合には、乙土地の賃借権は甲土地の所有権に従たるものとして甲土地の所有権とともにBに移転する。
Aが所有している甲土地をBが購入したことと
Aが乙土地を賃貸借契約していることは別物なので、そもそも所有権がBに移ったことにより賃貸借が付いてくることはありません。その為、答えは【誤り】
ただし、賃貸借契約ではなく地役権【通行地役権】の設定であれば、それは、甲土地が乙土地に対して通行できる権利を持っていることになるので、地役権は甲土地の所有に対して従たるものとなりBに移転します。
〇地役権とは・・・一定の目的の範囲内で、他人の土地(承役地)を自分の土地(要役地)の
ために利用する物権のこと
〇通行地役権とは・・・通行という目的のために設定される地役権のこと
賃借権とは別物ということが分かれば解ける問題ですね。
④の解説:誤り
【問題文④】
Cが甲土地を囲む土地の所有権を時効により取得した場合には、AはCが時効取得した土地を公道に至るために通行することができなくなる。

【民法第210条1項】
他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
甲土地を囲まれている土地の所有者が変わったとしても、袋地の所有者は、公道に出るために通行することが出来ます。基礎問題になります。
<まとめ 正解:1>
①の知識レベルまであれば、合格レベル
②は、難しいが推測できる
③は、解ける
④は、解ける
①が分からなくても②との関係で①を導き出せれば全体的には問題を解くことができるでしょう。