令和2年(2020年10月)問6<錯誤>
AとBとの間で令和2年7月1日に締結された売買契約に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、売買契約締結後、AがBに対し、錯誤による取消しができるものはどれか。
- Aは、自己所有の自動車を100万円で売却するつもりであったが、重大な過失によりBに対し「10万円で売却する」と言ってしまい、Bが過失なく「Aは本当に10万円で売るつもりだ」と信じて購入を申し込み、AB間に売買契約が成立した場合
- Aは、自己所有の時価100万円の壺を10万円程度であると思い込み、Bに対し「手元にお金がないので、10万円で売却したい」と言ったところ、BはAの言葉を信じ「それなら10万円で購入する」と言って、AB間に売買契約が成立した場合
- Aは、自己所有の時価100万円の名匠の絵画を贋作だと思い込み、Bに対し「贋作であるので、10万円で売却する」と言ったところ、Bも同様に贋作だと思い込み「贋作なら10万円で購入する」と言って、AB間に売買契約が成立した場合
- Aは、自己所有の腕時計を100万円で外国人Bに売却する際、当日の正しい為替レート(1ドル100円)を重大な過失により1ドル125円で計算して「8,000ドルで売却する」と言ってしまい、Aの錯誤について過失なく知らなかったBが「8,000ドルなら買いたい」と言って、AB間に売買契約が成立した場合
解答
①の解説:取消ができない
【問題文】
Aは、自己所有の自動車を100万円で売却するつもりであったが、重大な過失によりBに対し「10万円で売却する」と言ってしまい、Bが過失なく「Aは本当に10万円で売るつもりだ」と信じて購入を申し込み、AB間に売買契約が成立した場合
- 第95条3項
錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取り消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らな
かったとき
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき
錯誤が認められれば、取り消すことが出来るのですが。
今回は、錯誤が表示者Aの重大な過失によるものであり、かつ相手方BがAに錯誤があることを過失なく知らなかったため、条文のとおり取り消すことは出来ません。
一般常識的に考えても、重過失による錯誤をしたAが悪く、Bは、過失なく信じて購入しました。AとBどちらを守るのかと考えると、当然Bを守るべきであると推測できる問題ですね。
なので、答えは、【取消し出来ない】
②の解説:取消ができない
【問題文】
Aは、自己所有の時価100万円の壺を10万円程度であると思い込み、Bに対し「手元にお金がないので、10万円で売却したい」と言ったところ、BはAの言葉を信じ「それなら10万円で購入する」と言って、AB間に売買契約が成立した場合
Aは、「100万円」の壺を「10万円」と勘違いをしました。これは動機の錯誤ですね。
動機の錯誤が、認められれば錯誤が有効となり取消が出来ます。
この【動機の錯誤】が認められるためには「明示」または「黙示の表示」が必要です。
「明示」とは、100万円の壺であると伝えることです。
「黙示の表示」とは、100万円の壺であることを暗黙のうちに相手に表すことです。
今回のケースでは、Bに対して「明示」も「黙示の表示」もしていないため、Bは100万円の壺であることを、「重過失なく知らない」ことになります。
その為、【動機の錯誤】が認められず。
答えは、【取消し出来ない】となります。
③の解説:取消ができる
【問題文】
Aは、自己所有の時価100万円の名匠の絵画を贋作だと思い込み、Bに対し「贋作であるので、10万円で売却する」と言ったところ、Bも同様に贋作だと思い込み「贋作なら10万円で購入する」と言って、AB間に売買契約が成立した場合
Aは時価【100万円の名匠の絵画】を【10万円の贋作】だと勘違いしました。
これは、【動機の錯誤】ですね。
【動機の錯誤】が認められるためには「明示」または「黙示の表示」が必要でしたね。
今回は、「贋作」であることを伝えている(=明示している)ので、動機の錯誤が有効となり、答えは【取消ができる】ということです。
④の解説:取消ができない
【問題文】
Aは、自己所有の腕時計を100万円で外国人Bに売却する際、当日の正しい為替レート(1ドル100円)を重大な過失により1ドル125円で計算して「8,000ドルで売却する」と言ってしまい、Aの錯誤について過失なく知らなかったBが「8,000ドルなら買いたい」と言って、AB間に売買契約が成立した場合
ドルと円の話が、急に出てきて困惑しそうですが(^^;
問題としては、他の選択肢と同じようような問題です。
ちなみに、1ドル100円であれば、100万円=10,000ドルです。
なので、「10,000ドル」の腕時計を「8,000ドル」に勘違いして売却したということです。なので、これは動機の錯誤です。
【動機の錯誤】が認められるためには「明示」または「黙示の表示」が必要でしたね。
今回も、どちらもありませんでした。
BについてもAの錯誤について過失なく知らなかった。
ということのため、【動機の錯誤】は認められず。
答えは、【取消しできない】となります。
<まとめ 正解:3>
①は、一般常識的にも答えられる問題ですね。
②~④については、【動機の錯誤】の正しい理解をしているかどうかが問われています。
間違えた人は、どういうときが【動機の錯誤】で、どういうときに【動機の錯誤】が認められないのか。をよく理解しましょう。