令和2年(2020年10月)問7<保証>
保証に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。なお、保証契約は令和2年4月1日以降に締結されたものとする。
- 特定物売買における売主の保証人は、特に反対の意思表示がない限り、売主の債務不履行により契約が解除された場合には、原状回復義務である既払代金の返還義務についても保証する責任がある。
- 主たる債務の目的が保証契約の締結後に加重されたときは、保証人の負担も加重され、主たる債務者が時効の利益を放棄すれば、その効力は連帯保証人に及ぶ。
- 委託を受けた保証人が主たる債務の弁済期前に債務の弁済をしたが、主たる債務者が当該保証人からの求償に対して、当該弁済日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは、保証人は、債権者に対し、その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
- 委託を受けた保証人は、履行の請求を受けた場合だけでなく、履行の請求を受けずに自発的に債務の消滅行為をする場合であっても、あらかじめ主たる債務者に通知をしなければ、同人に対する求償が制限されることがある。
解答
①の解説:正しい
【問題文】
特定物売買における売主の保証人は、特に反対の意思表示がない限り、売主の債務不履行により契約が解除された場合には、原状回復義務である既払代金の返還義務についても保証する責任がある。
民法 第447条
1.保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に
従たるすべてのものを包含する。
最高判 最判昭40.6.30
特定物の売買契約における売主のための保証人は、特に反対の意思表示のないかぎり、売主の債務不履行により契約が解除された場合における原状回復義務についても、保証の責に任ずるものと解するのが相当である。
特定物・・・・取引の目的物として当事者が物の個性に着目した物
(不動産、イチロー選手のサインボール)
不特定物・・・具体的な取引にあたって、当事者が単に種類、数量、品質等に着目し、その
個性を問わずに取引した物
(家具屋さんで展示されているタンスや机、商品として売れれているボール)
民法の条文、最高裁の判決通りですが。
保証人は、売主がその主たる債務及び関連する債務について保証するというのが役割になりますので、売主の保証人ということであれば、売主の債務不履行により解除された場合のすでに買い主が支払った売買代金についての返金についても保証してもらえると考えるのは妥当だと十分考えれると思います。
逆にその部分については、保証人が保証しないのであればなんのための保証人なのだろう?
という発想がうまれれば、最高裁をしらなくても十分回答できる問題です。
②の解説:誤り
【問題文】
主たる債務の目的が保証契約の締結後に加重されたときは、保証人の負担も加重され、主たる債務者が時効の利益を放棄すれば、その効力は連帯保証人に及ぶ。
民法 第448条2項
主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重されたときであっても、保証人の負担は加重されない。
これは、条文を知らなくても常識的に考えれば答えられる問題です。
例えば、あなたが、1000万円に対する債務について保証人の契約をした後に、本人がさらに2,000万円の債務が追加された場合、保証人もこの新たな2,000万円についても保証しなければならないとなったら「聞いてないよ〜!」となりますよね。
なので、常識的に考えてもこれは【誤り】だと分かると思います。
時効の利益・・・時効の完成によって利益を受ける者が、時効の完成による利益を放棄すること。
今回のケースでは、債務が時効によって消滅する(債務がなくなる)ことです。
それをわざわざ本人が放棄する。「借金は、ちゃんとかえすから、時効は消滅しなくてもいいよ」としたわけです。
本人はそれでもいいかもしれませんが。保証人としては、困るわけです。
そこで、
民法 第145条
時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
時効の援用とは、
時効の完成によって利益を受ける者が、時効の完成を主張することである。時効の援用とは、時効の効果を確定的に発生させる意思表示であるということもできる。当事者が時効を援用しない限り、時効の効果は発生しないものとされている
ようは、時効を援用するかどうかは、それぞれの当事者が判断することになります。
そのため、主たる債務者が時効の利益を放棄しても、その効果は、連帯保証人に効果がおよばず、連帯保証人が消滅時効の援用をすることができます。
この問題は、最初の債務の加重の時点で誤りに気づくことができればすぐに答えを【誤り】と判断できる内容です。
時効についても、基礎的な知識ですので、しっかり抑えて学んでおきましょう。
③の解説:正しい
【問題文】
委託を受けた保証人が主たる債務の弁済期前に債務の弁済をしたが、主たる債務者が当該保証人からの求償に対して、当該弁済日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは、保証人は、債権者に対し、その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
- 民法第459条の2第1項
保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務の弁済期前に債務の消滅行為をしたときは、その保証人は、主たる債務者に対し、主たる債務者がその当時利益を受けた限度において求償権を有する。この場合において、主たる債務者が債務の消滅行為の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは、保証人は、債権者に対し、その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
答えは条文の通り、【正しい】となりますが。
これは、知識としては知らない問題ですので、「ウッ」と思うかもしれませんね。
普通の言葉で読み取って考えてみましょう。
保証人は、弁済期前に債務を支払ってしまったということは、保証人としては本来まだ支払う義務は生じていなかったにも関わらず債務を弁済してしまったということです。
一方で、主たる債務者は、債権者に対して相殺することができる反対債権を持っていて、それにより相殺をして債務を消滅しようと考えていたわけです。
ということは、保証人の弁済は、余計なお世話とも言えるわけです。
このとき、どういう形がもっとも収まりがいいのかと考えると。
保証人は、主たる債務者に求償を求めるのではなく、支払った債権者に対して相殺する分について払いすぎていたので、返してください。と言えるようにした。ということです。
④の解説:正しい
【問題文】
委託を受けた保証人は、履行の請求を受けた場合だけでなく、履行の請求を受けずに自発的に債務の消滅行為をする場合であっても、あらかじめ主たる債務者に通知をしなければ、同人に対する求償が制限されることがある。
- 民法 第463条1項
保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務者にあらかじめ通知しないで債務の消滅行為をしたときは、主たる債務者は、債権者に対抗することができた事由をもってその保証人に対抗することができる。
この場合において、相殺をもってその保証人に対抗したときは、その保証人は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
保証人が通知をしないで債務の消滅行為をした場合は、「主たる債務者は、債権者に対抗することができた事由をもってその保証人に対抗することができる。」=「同人に対する求償が制限されることがある。」
となり、答えは【正しい】
通知についての知識がなかったとしても、肢3の問題を考えると通知をしなければ、問題が発生することが読み取れるので、それを防ぐためにも通知が必要と推測できることがポイントになります。
<まとめ 正解:2>
①は、一般常識で答えられる
②は、一般常識で答えられる
③は、深い知識と推測が必要
④は、深い知識と推測が必要
問題としては、③と④がわからなくても、①と②が答えられば正解までたどり着くことが十分できる問題です。そういった意味では必ず得点したい問題です。