令和2年(2020年10月)問12<借地借家法(借家)>
AとBとの間でA所有の甲建物をBに対して、居住の用を目的として、期間2年、賃料月額10万円で賃貸する旨の賃貸借契約(以下この問において「本件契約」という。)を締結し、Bが甲建物の引渡しを受けた場合に関する次の記述のうち、民法及び借地借家法の規定並びに判例によれば、誤っているものはどれか。
- AがCに甲建物を売却した場合、Bは、それまでに契約期間中の賃料全額をAに前払いしていたことを、Cに対抗することができる。
- 本件契約が借地借家法第38条の定期建物賃貸借契約であって、賃料改定に関する特約がない場合、経済事情の変動により賃料が不相当となったときは、AはBに対し、賃料増額請求をすることができる。
- 本件契約が借地借家法第38条の定期建物賃貸借契約である場合、Aは、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情があれば、Bに対し、解約を申し入れ、申入れの日から1月を経過することによって、本件契約を終了させることができる。
- 本件契約が借地借家法第38条の定期建物賃貸借契約であって、造作買取請求に関する特約がない場合、期間満了で本件契約が終了するときに、Bは、Aの同意を得て甲建物に付加した造作について買取請求をすることができる。
解答
①の解説:正しい
【問題文】
AがCに甲建物を売却した場合、Bは、それまでに契約期間中の賃料全額をAに前払いしていたことを、Cに対抗することができる。
-
借地借家法 第31条1項(建物賃貸借の対抗力等)
建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。
最判昭36.01.31
建物の賃借人は、賃料前払の効果を賃借建物につき所有権を取得した新賃貸人に主張できる。
建物の賃貸借の場合は、建物の引渡しがあったときは、賃借権を第三者に対抗することができます。これは、賃借人保護の観点ですね。
所有者が変わってしまうことにより、住む場所がなくなってしまったら急に生活が出来なくなってしまうことも考えられます。
そして、前払家賃についても、新しい所有者に対して対抗することが出来ます。
そうでないと、賃借人は、前所有者に払った家賃を新所有者にも支払わなければならなくなります。それでは、2重払いになってしまいます。
これも、賃借人保護の観点からすると、賃借人が不利な話しですね。
よって、前払家賃についても新所有者へ対抗することが出来るとしています。
なので、答えは【正しい】
基礎問題です。前払いの家賃についての知識がなくても、賃借人の保護の観点から考えれば、十分答えを推測することが出来る問題です。
②の解説:正しい
【問題文】
本件契約が借地借家法第38条の定期建物賃貸借契約であって、賃料改定に関する特約がない場合、経済事情の変動により賃料が不相当となったときは、AはBに対し、賃料増額請求をすることができる。
第32条1項(借賃増減請求権)
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
賃料増額請求ができるのは、定期建物賃貸借契約に限らず、全ての建物賃貸借契約についてできます。賃料は、借主・貸主公平にするためにもその時々の適した賃料にすることが求められているということです。
第38条7項(定期建物賃貸借)
第32条の規定は、第1項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない。
しかし、特約を付けることで賃料を増額も減額も出来なくすることが出来ます。
※普通借家の場合は、減額出来ない特約は無効です。
普通建物賃貸借 | 定期建物賃貸借 | |
不増額特約 | 有効 | 有効 |
不減額特約 | 無効 | 有効 |
今回は、特約が無いため、答えは【正しい】となります。
基礎問題です。
③の解説:誤り
【問題文】
本件契約が借地借家法第38条の定期建物賃貸借契約である場合、Aは、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情があれば、Bに対し、解約を申し入れ、申入れの日から1月を経過することによって、本件契約を終了させることができる。
第38条5項(定期建物賃貸借)
第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。
定期建物賃貸借で、中途解約できるのは一定の「建物の賃借人」だけです。
Aは「賃貸人」のため、中途解約できません。
そのため、答えは【誤り】となります。
定期建物賃貸借は期間が経過すれば、契約を終了させることが出来るので、「賃貸人」はそれまでまちましょう。ということですね。
④の解説:正しい
【問題文】
本件契約が借地借家法第38条の定期建物賃貸借契約であって、造作買取請求に関する特約がない場合、期間満了で本件契約が終了するときに、Bは、Aの同意を得て甲建物に付加した造作について買取請求をすることができる。
第33条1項(造作買取請求権)
建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。建物の賃貸人から買い受けた造作についても、同様とする。
条文の通りですね。そのため【正しい】です。
※このルールは、定期建物賃貸借契約でも、それ以外の建物賃貸借契約でも共通のものです。
これも基本問題です。
<まとめ 正解:3>
①は、基礎問題です。
②は、基礎問題です。
③は、基礎問題です。
④は、基礎問題です。
借地借家権は、毎年出題されている問題です。
こうした基礎問題は、確実に得点できるようになりましょう。
基礎知識の考え方を理解しながら学ぶことで、応用問題が出たときも対応できるようになりますので、「なぜ、そうなのか?」を推測・理解して学んでいきましょう。