令和2年(2020年12月)問1<不法行為>
不法行為(令和2年4月1日以降に行われたもの)に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
- 建物の建築に携わる設計者や施工者は、建物としての基本的な安全性が欠ける建物を設計し又は建築した場合、設計契約や建築請負契約の当事者に対しても、また、契約関係にない当該建物の居住者に対しても損害賠償責任を負うことがある。
- 被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を与え、第三者に対してその損害を賠償した場合には、被用者は、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができる。
- 責任能力がない認知症患者が線路内に立ち入り、列車に衝突して旅客鉄道事業者に損害を与えた場合、当該責任無能力者と同居する配偶者は、法定の監督義務者として損害賠償責任を負う。
- 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しない場合、時効によって消滅する。
解答
①の解説:正しい
【問題文】
建物の建築に携わる設計者や施工者は、建物としての基本的な安全性が欠ける建物を設計し又は建築した場合、設計契約や建築請負契約の当事者に対しても、また、契約関係にない当該建物の居住者に対しても損害賠償責任を負うことがある。
まず「設計契約や建築請負契約の当事者に対して」ですが、
注文者(依頼者)が、設計者や施工者に依頼して出来たものが、「安全性を欠ける」という契約不適合があるわけなので、当然、損害賠償責任を請求することができます。
次に「契約関係にない当該建物の居住者に対して」ですが、
この居住者は、注文者と設計者・施工者との契約に直接的に関わりがないため、契約上の責任は追及することは出来ません。
しかし、建物の設計者・施工者は、「建物の設計者,施工者又は工事監理者が,建築された建物の瑕疵により生命,身体又は財産を侵害された者に対し不法行為責任を負う(最高裁平成19年7月6日)」としているため、不法行為による損害賠償責任を負います。
そのため、答えは【正しい】です。
前半は、分かると思いますが。
後半については、判断に迷う人も多いと思います。「設計者・施工者」は、どこまでの責任を負わなければならないのか?ということを消費者を守る目線で考えるのが、ポイントでした。
②の解説:正しい
【問題文】
被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を与え、第三者に対してその損害を賠償した場合には、被用者は、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができる。
民法 第715条(使用者等の責任)
1.ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2.使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3.前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
被用者とは・・・雇われている人(その社員をイメージ)
使用者とは・・・雇っている人、賃金を支払う人(会社をイメージ)
社員(被用者)が、第三者に対して損害を与えてしまったその責任について、社員(被用者)が、第三者に対して損害賠償を支払いましたが、その社員(被用者)は、支払った損害賠償の一部(相当の額)を、会社(使用者)に対して求償することが出来るか?
ということですが。
民法の条文では、「使用者→被用者に対する求償」について述べられていますが。
「被用者→使用者に対する求償」については述べられていません。
しかし、原則として「使用者は、被用者が第三者に加えた損害を賠償する責任がある」わけですので、「損害の公平な分担という見地から相当と認められる額」であれば、被用者が使用者に対して求償することができると考えるのが、合理的ではないでしょうか?
逆に求償できないとする方が、不自然です。
そのため、答えは【正しい】となります。
会社と社員の関係性をイメージして文章を捉えるとイメージが付きやすいと思います。
法律の条文まで知らなくても、被用者・使用者という言葉の意味、そして社員が起こした不祥事に対して会社は全く責任を負わない。というわけにはいかないよね。という一般常識的な考えがあれば、答えにたどりつける問題です。
③の解説:誤り
【問題文】
責任能力がない認知症患者が線路内に立ち入り、列車に衝突して旅客鉄道事業者に損害を与えた場合、当該責任無能力者と同居する配偶者は、法定の監督義務者として損害賠償責任を負う。
民法 第713条(責任能力)
精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。
民法 第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
1.前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2.監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。
【責任能力がない】ということは、本人は【賠償責任】を負えないわけなので、その代わりに、監督義務者が責任を果たさなければならないのかどうか?
というのがこの問題のポイントです。
確かに、「監督義務者」としての責任として損害賠償を負う必要があるとも考えられますが。「監督義務者」としてその義務を全うしていたにも関わらず、そうした事故が起きてしまったとしても「監督義務者」が責任を負わなければならないのでしょうか?
そうだとしたら、それはちょっとかわいそうですよね。
そう考えると、どんなケースでも「監督義務者」が責任を負うとは考えられないので、この答えは【誤り】と、推測できます。
【本来の解説】
しかし、実はこの問題の本当の論点は、「同居する配偶者」は、「法定の監督義務者」にあたるかどうか?ということです。
これは、(最高裁28.03.01)で、「無責任能力者と同居する配偶者」は「法定の監督義務者」に当たらないと結論付けているため、そもそも損害賠償は負わない。というのが正確な解説となります。
とはいえ、宅建試験受験者からしたらそんなことは、「当然知らない」ですし。そこまで勉強する必要もありません。それよりも、こういう問題は、知識がなくても問題を見て答えにたどり着く推測力が重要です。
④の解説:正しい
【問題文】
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しない場合、時効によって消滅する。
民法 第724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
第724条の2 (人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。
この問題は、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の基礎知識です。
「3年」「5年」「20年」がポイントです。
それぞれの意味も含めてしっかり覚えていきましょう。
私が行っている宅建講座では、覚えれば解ける問題については、記憶術を活用してさっさと覚えてもらえるような教材を提供しています。
なので、答えは【正しい】です。
<まとめ 正解:3>
①は、判断に迷ったと思います。
②は、一般常識に照らし合わせて考えれば解ける問題です。
③は、推測できるかどうかがポイントでした。
④は、基礎問題です。
④以外は、難しい問題だったと思います。
おそらく①か③かで迷った人が多いのではないでしょうか?
正確な答えは出せなくても、推測力を活用することで可能性が高い答えを導き出しましょう。
本番では、解くのに時間がかかる人は、こうした問題は、捨て問題にしてもOKです。さっと飛ばして、解ける問題から解いていきましょう。