令和2年(2020年12月)問2<代理>
AがBに対して、A所有の甲土地を売却する代理権を令和2年7月1日に授与した場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
- Bが自己又は第三者の利益を図る目的で、Aの代理人として甲土地をDに売却した場合、Dがその目的を知り、又は知ることができたときは、Bの代理行為は無権代理とみなされる。
- BがCの代理人も引き受け、AC双方の代理人として甲土地に係るAC間の売買契約を締結した場合、Aに損害が発生しなければ、Bの代理行為は無権代理とはみなされない。
- AがBに授与した代理権が消滅した後、BがAの代理人と称して、甲土地をEに売却した場合、AがEに対して甲土地を引き渡す責任を負うことはない。
- Bが、Aから代理権を授与されていないA所有の乙土地の売却につき、Aの代理人としてFと売買契約を締結した場合、AがFに対して追認の意思表示をすれば、Bの代理行為は追認の時からAに対して効力を生ずる。
解答
①の解説:正しい
【問題文】
Bが自己又は第三者の利益を図る目的で、Aの代理人として甲土地をDに売却した場合、Dがその目的を知り、又は知ることができたときは、Bの代理行為は無権代理とみなされる。
民法 第107条(代理権の濫用)
代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、 又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。
「自己又は第三者の利益を図る目的」ということは、代理という立場を利用して悪いことをしようとしているわけです。(売買代金の着服とか)
問題文は、代理人Bは悪いことをしようとしているということを、相手方Dは知っているもしくは、知ることができた状況であれば、守るべきなのはAですよね?
そのため、この代理契約は【無権代理】となり、契約は無効となり答えは、【正しい】
【代理権の濫用】の知識が無くても、状況からどちらを守るべきかを客観的に判断出来れば答えを推測できる問題です。
②の解説:誤り
【問題文】
BがCの代理人も引き受け、AC双方の代理人として甲土地に係るAC間の売買契約を締結した場合、Aに損害が発生しなければ、Bの代理行為は無権代理とはみなされない。
民法 第108条(自己契約及び双方代理等)
同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
双方代理についての問題です。
原則 | 無権代理となりその契約の効果は本人に帰属しない |
例外 | 下記の場合は、有効な代理契約となる |
⑴本人(代理権を与えた者)が、あらかじめ許諾している場合 ⑵すでに売買契約済不利益を生じさせない単なる債務の履行、移転登記の申請のみなど |
原則と、例外を分けて覚えましょう。法律の多くは【原則】と【例外】に分かれます。
よって、答えは、【誤り】です。基礎問題です。
③の解説:誤り
【問題文】
AがBに授与した代理権が消滅した後、BがAの代理人と称して、甲土地をEに売却した場合、AがEに対して甲土地を引き渡す責任を負うことはない。
民法 第112条(代理権消滅後の表見代理)
1.他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。
代理権が消滅したということは、無権代理になるわけです。
無権代理は、原則→無効になる。でしたね。
しかし、これも例外があります。それが【表見代理】です。
表見代理とは、相手方に対して「表向き」は代理権があるように見えるが、実際には代理権がないという「無権代理」の一種です。
無権代理との違いは、本人にも代理権があると思わせたと言う責任があるので、「本人にも責任が及ぶ」(有効となる)(直接本人に所有権移転登記を請求する等)というところです。「通常の無権代理か」それとも「表見代理が成立するのか」を判別できることがポイントです。
問題文では、本人Aが責任を負うことはない。と言いきっていますが。
このケースは、条文にもあるとおり「表見代理」に該当する可能性があるため、責任を負うことはない。と言い切ることが出来ません。そのため答えは、【誤り】となります。
基礎問題です。
④の解説:誤り
【問題文】
Bが、Aから代理権を授与されていないA所有の乙土地の売却につき、Aの代理人としてFと売買契約を締結した場合、AがFに対して追認の意思表示をすれば、Bの代理行為は追認の時からAに対して効力を生ずる。
民法 第113条(無権代理)
1.代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
2.追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない
民法 第116条(無権代理行為の追認)
追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
無権代理による契約は、原則→無効。ですが。
本人が、追認すれば、有効な代理契約になります。
勝手に代理契約をされてしまったものの、本人にとって悪い契約でなければ、本人にとってもそのままでいいですよね。また、代理人・相手方誰も損をしないことを考えると有効にして問題なしと考えられると思います。
ポイントは、効力を生じる時期です。
追認をした場合「契約の時にさかのぼってその効力を生ずる」ことになります。
そのため、答えは【誤り】です。
基礎問題です。
<まとめ 正解:1>
①は、知らなくても答えを推測できます。
②は、基礎問題です。
③は、基礎問題です。
④は、基礎問題です。
法律には【原則】と【例外】があります。
まず【原則】をしっかりおさえた上で、どんなケースの時に【例外】があるのかを抑えましょう。特に代理では、言い切っている分があれば怪しい・・・例外があるのでは?と考えましょう。